マツノヒデマサの 療養温泉突撃取材記
垂玉温泉 山口旅館 旅と温泉の相談室
垂玉温泉 山口旅館
(熊本県阿蘇郡南阿蘇村)
ホテル詳細

●温泉泉質 51.2℃単純硫黄泉(源泉掛け流し)
●温泉効能 神経痛、筋肉痛、関節痛、疲労回復、慢性皮膚病、糖尿病、打ち身、貧血、慢性婦人病、胃腸病など。
●湯治療養 江戸時代末期から名湯を誇る湯治場

阿蘇山麓の季節の移ろいを彩る趣に包まれて
永い歳月に育まれた文人墨客の宿

垂玉温泉 山口旅館 前景 世界一のカルデラを誇る熊本県阿蘇山・鳥帽子岳の中腹、標高667mの谷間に垂玉温泉「山口旅館」がある。山あいの杉木立に見え隠れする、歴史と風格のある一軒宿だ。静寂に包まれたこの温泉宿には2002年5月に初めて訪れたが、同じ年の10月17日に地元のご婦人方の団体旅行を添乗して2度目の訪問となった。まだ紅葉の時期には少し早かったが、それでも自慢の金龍の滝の真下にある「滝の湯」の崖上の木々は紅く染まっていた。

 早速、宿の七代目社長山口一尚氏に垂玉温泉と山口旅館の歴史を尋ねた。天正年間まではこの地に「金龍山垂玉寺」があり、修験者により温泉が発見されたと伝えられている。しかし、延享年間の大洪水で埋没し温泉もしばらく断絶していたが、文化年間に袴野村の武七という者が垂玉温泉を開いたと「長陽村」誌に残る。江戸末期に初代山口太八郎氏が高森より転住し温泉主となり、車道を自費で開き敷地を広くし浴舎を改築するなど徐々に再興されてきた。大正10年、金龍の滝の下に現在の「滝の湯」の原型となる露天風呂を建設、名物露天風呂の基礎を作ったとのこと。

垂玉温泉 山口旅館 「五足の靴」石碑 明治から昭和にかけて文人墨客の来客も数多く、明治40年に与謝野鉄幹、北原白秋、木下杢太郎、平野万里、吉井勇による新詩社主宰の九州旅行記「五足の靴」には垂玉温泉に滞在した記録が残る。また野口雨情も投宿し「秋の紅葉は山から山へ 阿蘇の垂玉よいながめ」と詠んだ。敷地内にはこれら文人墨客の石碑も建立されている。

 泉質は50.2℃単純硫黄泉。肌触りが柔らかくくせのない湯で、刺激も少なく高齢者や病後療養などに適している。源泉は宿の背後にそそり立つ岩山「金龍山」から流れ落ちる金龍の滝壺にあり、烏帽子岳山系の地下水が地熱によって温められ、岩盤の割れ目から絶え間なく湧き出している。
垂玉温泉 山口旅館 大浴場 古くから名湯と言われた源泉は、湯量豊富でいずれの浴槽もかけ流しで、周囲の環境同様かつての湯治場の風情を残している。効能は、神経痛、筋肉痛、関節痛、疲労回復、慢性婦人病、糖尿病など。

垂玉温泉 山口旅館 混浴露天風呂「滝の湯」 大浴場はサウナ、水風呂、打たせ湯もあり、天井が吹き抜けで総檜造りで梁が豪快に伸びている。石造りの大きな四角い浴槽にたっぷり湯が引かれ、湯は透明だがほんのりと黄白色の湯花が咲き、口に含むと渋みが感じられる。男女とも渓谷に湯船がせり出すように面しており、特に木々の新緑や紅葉時には、すばらしい眺望だ。
 他に岩風呂、檜風呂、桶風呂が楽しめるカヤ葺き半露天風呂「かじかの湯」、野趣溢れる混浴露天風呂「滝の湯」がある。自然の滝壺を見ながら入浴を楽しめる露天風呂は正に秘湯ムード満点。風呂の正面で金龍の滝がほとばしり、そこから温泉がどんどんと湧いてあふれてくる。永久に絶えることのない、大自然の恵みを実感できる。「滝の湯」は混浴ではあるが、女性は「湯あみ着」を貸し出ししているので、着用での入浴が可能。

垂玉温泉 山口旅館 和室 客室は和室24部屋・収容人員は120名。部屋タイプ・利用人数により料金設定は異なる。昭和61年頃までは、湯治客用の自炊棟もあったが現在はない。客室はどこも閑静で滞在しやすい。

 自慢の夕食は、今回は団体旅行だったので和式宴会場だったが、個人客は部屋食または食事処で賞味できる。食前酒のブルーベリーワインで乾杯。茄子寿司、松茸の土瓶蒸し、鯛・勘八などのお造り、山女の塩焼き、肥後牛朴葉焼き、豆乳と茸のパイ包みシチュー、野菜饅頭・銀あんかけなど。野趣豊かな山の幸を素朴に料理したり、また洋風にアレンジするなど多彩な味が楽しめて、女性客には大変好評でなごやかな宴となった。
垂玉温泉 山口旅館 宴会場 食事処「狩の座(かりのくら)」・「菜蕗の舎(ふきのや)」では、冬季は囲炉裏に火が入り、鍋や山女魚の塩焼きなど野趣あふれる料理が味わえる。冬の代表的な郷土料理である、サトイモと豆腐を串ざしにして遠火であぶり味噌をつけて食べる「田楽」の素朴な味も良い。

 垂玉の山麓に湧く水を生かし、「垂玉の名水」として湯上りに喉をうるおすように各湯小屋の側に引かれている。また、料理に使用したり、朝のコーヒーやお茶、朝食の食卓に置かれるレモン水に使われている。「清澄なる自然をそのままおもてなしの心として」という宿の心が清らかな水から伝わってくる。

垂玉温泉 山口旅館 フロント「五足の靴」の中で一行の5人は、当時の旅館のたたずまいを
「後に滝の音面白き山を負ひ、右に切っ立ての岡を控え、左の谷川を流し、前はからりと明るく群山を見下し、遙かに有明の海が水平線に光る。高く堅固な石垣の具合、黒く厳しい山門の様子、古めいた家の作り、辺の要害といひ如何見ても城郭である。天が下を震はせた昔の豪族の本陣らしい所に、一味の優しさを加えた趣がある。これが垂玉の湯である。名もいいが、実に気に入った。」と感嘆している。
 長い歳月を経てさらに風情を醸し出し、いつまでもその情緒が受け継がれていく、まさに九州でも有数の秘湯の一軒宿である。
(2002年10月)


 
垂玉温泉 山口旅館
(熊本県阿蘇郡南阿蘇村)
ホテル詳細
温泉文学論
川村 湊著
税込価格:714円(本体680円)/出版:新潮社

名作には、なぜか温泉地が欠かせない。立ち上る湯煙の中に、情愛と別離、偏執と宿意、土俗と自然、生命と無常がにじむ。本をたずさえ、汽車を乗り継ぎ、名湯に首までつかりながら、文豪たちの創作の源泉をさぐる紀行評論。
→文学を訪ねる温泉紀行


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