マツノヒデマサの温泉取材記
河内温泉 金谷旅館 全景
河内温泉 金谷旅館
(静岡県下田市河内)
ホテル詳細

●温泉泉質 55℃アルカリ性単純泉(加水・加温・循環・塩素投入なし)
●温泉効能 リウマチ・運動器障害・神経麻痺・神経痛・病後回復・慢性消化器病・皮膚病など

江戸の末より創業130余年。時を越え、世代を越えて価値あるものを大切に・・・
日本最大の総檜大浴場“千人風呂”

 2006年9月14日、日本一の総檜大浴場の噂を聞いて、いつかは行かなければと思っていた河内温泉「金谷旅館」を訪れた。下田から15分ほどで、蓮台寺温泉に着く。河内温泉金谷旅館はその一角の街道沿いにある。向かいは稲生中学校でバス停は「金谷旅館前」。お吉が稲生沢川で身投げをしたお吉ヶ淵はすぐそばだ。母屋の建物は昭和4年築で、別棟は昭和31年築の日本建築美を残す建物群。金谷山を背に二千坪の敷地に建つ、全室南向きの木造二階建ての宿だ。玄関を入るとすぐに母屋中央の欅の階段を登り、二階の松の間に案内をしていただいた。

河内温泉 金谷旅館 客室 本間10畳と次の間6畳の部屋で広い。三面が障子戸で囲まれ、さらに周りを縁側で囲まれている。秋田産神代杉の天井、長さ十一間の丸桁、欅造りの床の間、巨木からとった四方柾目の柱や障子の腰板など贅沢な部屋だ。天井が高い。建築の時に「これからは外国のお客が来る時代だから」と、四寸12cmほど襖や障子を高く作っている。隣は同じ広さの広間で、トイレは廊下に出た所に共用の洗面所トイレがある。玄関でスリッパを履いてきたが、板の間で素足のほうが気持ち良い。宿の方も素足だ。客室の他の和室9室はトイレ付でウオシュレットトイレは4室。宿のあちこちに若女将が描いた花鳥の油絵が飾られている。鉄筋三階建て別館の1階にアート&ダンスルームがある。階段を登った2階には天然温泉付洋室が3部屋ある。

河内温泉 金谷旅館 千人風呂 二ヶ所の自家源泉を持つ男性用(混浴)大浴場、千人風呂は平成14年の改修工事により、「伊豆一の木造大浴場」から「日本一の総檜大浴場」になった。女性用「万葉の湯」はかつてはタイル張りだったが、平成3年10月に木造大浴場に生まれ変わった。日帰り入浴客が引きもきらず立ち寄る。若旦那の今井浩信氏はパンフレットに「御宿泊・立ち寄り湯」と書いた理由を「宿泊のお客様に、金谷旅館が日帰り客をとっていることを事前に知らせるようにあえて記入しているんです。」日帰り入浴客は、週末は宿泊収容人数の2〜3倍は来るという。日帰り入浴料は、大人1,000円。
  まずは日本最大の大きさという大浴場に行ってみる。一階の奥が男性用(混浴)、手前が女性用となる。更衣室から浴室へ入るとプールのようなお風呂が広がる。これは広い!総檜造りの浴室の天井や壁は大正4年築だが、板張りのため梁や柱は見えない。むき出しにしていると痛みやすく、湯の成分のせいか10〜15年に一度は張り替えるようだという。長さ15m、巾5mの浴槽は太い丸太で仕切られ、手前側は浅く、湯船の真ん中に3体の女体ブロンズ像(伊東市出身の重岡建治作)が飾られている。
 奥半分の浴槽は深く私のへその上まで湯が満たすほど深い。機能回復訓練用の水中運動も利用されるという。右奥角に女性用更衣室から出入りできる入り口がある。若旦那の話では「入浴客で混浴するのは2割ぐらい」とのこと。入り口近くの湧出口からあふれる豊富な湯は音を立てて湯船へ注がれる。源泉が55度のアルカリ性単純泉で加温・加水・循環なしなので、実に清潔、「ざぶっ」と顔を洗いたくなる。飲用も出来るので口に含むと癖のない湯だ。左奥の小さな湯船には温度の低い源泉が注がる。温度差の湯に交互に入ると新陳代謝を促すのによい効果がある。

河内温泉 金谷旅館 露天風呂 突き当たりに外と繋がる開閉ドアを引いて露天風呂へ。男女別の仕切りと槙の垣根に囲まれた露天風呂は狭く感じる。打たせ湯もある。翌朝、5時40分頃露天風呂に入り、晴れた空を見上げると半月が見えた。大浴場の浅い船に足をつけてじっとしていると、聞こえるのは湯の流れるせせらぎの音と蝉の声だけ。空けられた窓から風がそよそよ・・・自然の音以外何もない癒しの時間・空間・・・昔はこんな時間が沢山あった、と感慨にふける。

河内温泉 金谷旅館 万葉の湯 後で入浴客のいない時間に女性用の大浴場「万葉の湯」を見せていただいた。梁や柱がドーンと見える豪快な素晴らしい浴場だ。長さ10m巾5mはあるかな。浴槽は半円形で珍しい。大きさは男性用に負けるが内容では負けていない。玄関をいったん出て、左手の木造湯小屋へ行くと貸切風呂が2ヶ所ある。昔一銭箱に一銭を入れていたので「一銭湯」と呼ばれた。フロントで「貸切中」の札と鍵をもらう。湯船はコンクリの床。長さ3.5m幅1.2mを3つに丸太で仕切っている。自然に温度差をつけている。屋根の一部以外は立て替えられたが、明治時代の構造そのままだという。
 泉質は陽イオンがカリウム4.1mg、ナトリウム86.2mg、カリウム22.8mg、陰イオンで塩素61.2mg、硫酸107.2mg、ヒドロ炭酸70.6mg、メタケイ酸41.1mg。柔らかいやさしい緩和性の湯だ。効能はリウマチ、運動器障害、神経麻痺、神経症、病後回復、慢性消化器病、慢性皮膚病、美肌など。

河内温泉 金谷旅館 夕食 夕食は二階の部屋に運んでいただいた。食前酒は17代目女将今井弘子さん手作りの梅酒、先付けにトマトのワイン煮・そらまめ形のチーズ・鯵握り寿司・えびにサザエ、帆立の梅肉和え、お造りは伊勢海老・鮪・金目鯛・イカ、たかべの塩焼き、金目の煮付け、なめこのみぞれ和え、車えびの塩焼きに沢がに、伊豆海藻そば、舞茸と海老の天ぷら、蛸・枝豆・湯葉・葛の唐揚げ、お吸い物は白身魚にオクラ、デザートはいちじくのシャーベット。新鮮な魚介類、手の込んだ調理の数々に大満足。夕食後に仲居さんが「どちらも天然の温泉水ですよ」とポットと氷水を置いてくれた。朝食にでた温泉卵やご飯も温泉を使用して調理したもの。

河内温泉 金谷旅館 絵画 若旦那にこちらで一番大事にしているものは?とお聞きすると「うーん。全体的な古さを大事にしたい。温泉も建物も・・・。」そういえば、館内に天日干しの布団が積んであり、若女将の描いた絵も無造作に置かれている。朝、布団を片付けに来た仲居さんは、部屋の窓にすぐ干していた。昔の旅館はそうだったな・・・田舎に癒しに帰ってきた家のような雰囲気のする宿だ。
河内温泉 金谷旅館 天文台 女将の一人娘伊豆美さんが仙台で日本古典文学を学んでいた学生時代に、法律を学ぶ当時の若旦那と知り合ったそうだ。そしてこの宿の若旦那となって彼は敷地内に3mドーム天文台を作り、晴天の夜は宿泊客に公開している。娘さんは若女将として日本文化のお茶、お花を習い、庭に野の花を育て、季節感を館内に演出している。花鳥の油絵や社交ダンスも手がけ、別館に交流の場を設けている。古きを残し、新たな可能性を沢山秘めた癒しの宿と言えそうだ。
(2006年9月)

 
河内温泉 金谷旅館
(静岡県下田市河内)
ホテル詳細

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